日本茶は味も香りも
こんなに違う!
個性豊かな日本茶の品種

日本茶は味も香りも
こんなに違う!
個性豊かな日本茶の品種

ひとことで日本茶と言ってもその味わい、香り、色味は、品種によって実にさまざま。まずは現在もっとも広く栽培されている代表的な5品種の特徴を知り、品種によって異なるポイントや飲み比べをするときに着目すべき点を押さえましょう。

全120種以上! 見直され始めた日本茶の品種の価値

「日本茶の品種は、毎年平均して1〜3種類ほど増えています」と語るのは、国内唯一の品種茶専門店「心向樹(しんこうじゅ)」の代表・川口史樹(かわぐち ふみき)さん。茶業界でただひとり、民間の“品種専門家”として精力的に活動し、日本茶の品種に関する著書も手がけるスペシャリストです。今回は川口さんに日本茶の代表的な品種について教えてもらいます。

現在、農林水産省に登録されている日本茶の品種はなんと120以上。1953年に茶の農林登録制度が発足し、「やぶきた」「あさつゆ」など15品種が登録されて以来、その数は年々増え続けています。かつては在来種を種から育てる実生(みしょう)という栽培方法が一般的だった茶の樹は、1960年代に挿し木技術が発達すると、ほぼ同じ性質を持つ樹を安定して増やすことが可能になり、優れた品種を繰り返し挿し木をして育てるようになりました。中でも特に全国で根付いたのが「やぶきた」です。2020年7月現在「やぶきた」は国内の全茶園面積の7割以上を占め、一般的に緑茶として呼ばれるもののほとんどは「やぶきた」と言ってもよいでしょう。

現在、日本でもっとも広く栽培されている上位5品種は「やぶきた(71.5%)」「ゆたかみどり(6.3%)」「さえみどり(4.0%)」「おくみどり(3.3%)」「さやまかおり(2.1%)」(出典元:農林水産省「茶をめぐる情勢」令和2年7月)。川口さんによれば、「『やぶきた』に次ぐそれぞれの品種は、『やぶきた』と摘採時期が異なることや、各地の気候・土壌環境に適したものなど、あくまで農家の生産効率性向上の観点から広まったもの。“それぞれの味の違いを楽しむ”という概念は、2000年代に入るまでほとんどありませんでした」。

消費者のニーズに合わせて多様な品種を栽培する動きが活発になってきたのはようやく近年になってから。輸出産業の拡大や、消費者が好みに合わせて品種を選ぶ“日本茶=嗜好品”としての一面がフィーチャーされ始めたことがきっかけだと言います。「少量ずつではありますが個性豊かな品種が幅広く栽培され始めました。また、現代の嗜好に合わせた新しい品種の開発も進んでいます」。

 

個性豊かなトップ5品種

120品種それぞれに特徴がありますが、ここではまず代表的な5品種を取り上げます。

やぶきた

まずは「やぶきた」。前述したように、いわゆる「緑茶」と呼ばれるものの多く がこの「やぶきた」です。「やぶきた」は、いわば日本茶の“スーパー品種”。さわやかな香りがあり、甘味・旨味・渋味・苦味のバランスに優れ、美しい色味も出ることから広く好まれてきました。静岡県の在来種から生まれたとされていますが、耐寒性が強く栽培環境の影響を受けにくいため全国各地で栽培されています。摘採時期は早くも遅くもない中生。味、育てやすさ、収穫時期ともにまさにオールマイティな品種といえるでしょう。煎茶はもちろん、玉露や釜炒り茶への加工にも適しています。

 

ゆたかみどり

「ゆたかみどり」は暖地での栽培に適しており、ほとんどが鹿児島県で栽培されています。早生種のため「やぶきた」よりも摘採時期が早く、いち早く新茶が出荷できることや工場の稼働時期を分散できることから、鹿児島県の農家の間ではメジャーな品種です。県自体の茶園面積が広いために、結果的に「やぶきた」に次いで広く栽培される品種になっています。味は渋味が強く、深蒸しにするのが一般的。力強い旨味とボディがあり、せんべいや餡を使った和菓子などと好相性です。

 

さえみどり

「あさつゆ」と「やぶきた」を交配して生まれた「さえみどり」も早生種です。「ゆたかみどり」とは対称的に渋味が少なく、豊かな甘味と深い旨味が特徴。また、色も鮮やかです。穀物を思わせるやや独特な香りを持つため育種された当初はあまり受け入れられませんでしたが、徐々にその旨味の強さが評価されるようになり、品評会で上位にランクインするにしたがって広く栽培されるようになりました。近年は、玉露として高く評価されるものの多くを「さえみどり」が占めています。

 

おくみどり

「おくみどり」は、「やぶきた」よりも摘採時期が遅い晩生種に当たります。上位種の中ではもっとも「やぶきた」に近い味わいを持ち、気候や土壌などの環境に左右されにくいことから全国で栽培されています。そのため、“「やぶきた」と時期をずらして収穫できる、「やぶきた」に近しい味の品種”として、非常に多くの農家が取り入れている品種です。「やぶきた」同様に渋味・甘味・旨味・苦味のバランスが良好。「やぶきた」と比較するとややまろみがあります。

 

さやまかおり

「さやまかおり」は名前の通り埼玉県で育成された品種です。早晩性は「やぶきた」と同じ中生ですが、山間冷涼地ではやや摘採時期が早く収穫量が多いため、比較的寒さの強い産地で「たくさんの量の新茶を早くから出荷したい」という農家に好まれています。味わいは「ゆたかみどり」に近く渋味が強め。脂っこい料理やバターの風味が豊かな焼き菓子などと相性がよく、食後に飲むことで後味をスッキリと整えてくれます。

 

好みの品種を見つけるには、“飲み比べ”が一番

これらの5品種を含め、一般的な煎茶の味わいは大きく「①渋味・苦味が強いもの」「②甘み・旨味が強いもの」「③バランスがとれたもの」「④フローラルな香りのもの」に分類できると川口さんは言います。たとえば、

①渋味・苦味が強いもの:ゆたかみどり、さやまかおり
②甘み・旨味が強いもの:さえみどり
③バランスがよいもの:やぶきた、おくみどり
④フローラルなもの:ゆめわかば、そうふう

 

といった具合です。「④フローラルなもの」は花や果物のような独特の香りを持つもので、代表的な品種に「ゆめわかば」や「そうふう」があります。

川口さん曰く、自分好みの品種を見つけるには“飲み比べ”を進めていくのがおすすめ。「まずは①〜④の代表的な品種を飲み比べて自分がどの系統が好みなのかを見つけ、その中でさらに飲み比べをしていくとよいでしょう。比べることでその個性をよりハッキリと感じることができるはずです」。

これまでは産地や価格しか明示されていなかった日本茶で、ようやく光が当たり始めた品種。品種による個性の違いを知れば、新たな日本茶の世界が見えてきます。まずはポピュラーな5種の飲み比べから始めてみてはいかがでしょうか。

 

教えてくれた人| 川口史樹さん

川口史樹(かわぐち ふみき)。世界初の品種茶専門店「心向樹」(埼玉県所沢市)代表。大学時代より植物研究を専門とし、前職で茶の品種の研究に従事。5年で延べ3万種類以上のお茶を飲み、お茶が持つ“本当の価値”に魅了され「心向樹」を創業。2018年には「日本茶AWARD」で史上初の3冠を達成する。現在は茶業コンサルタント、茶業界唯一の民間“品種専門家”として、執筆や講演等でも活躍。著書に「茶の品種」(静岡県茶業会議所)。

写真・吉田浩樹 文・山本愛理