バリスタ目線のアプローチで日本茶をもっと身近に「Lit COFFEE&TEA STAND」

バリスタ目線のアプローチで日本茶をもっと身近に「Lit COFFEE&TEA STAND」

コーヒーと日本茶の2軸を掲げ、2020年に東京・芝公園にオープンした「Lit COFFEE&TEA STAND」。バリスタならではのアプローチにより日本茶をアレンジドリンクやスイーツに落とし込むことで、地元客や観光客にまで親しまれてきた同店のオーナー・吉田直矢さんに、日本茶との向き合い方を伺いました。

詰まるところ、日本人にとって日本茶は「日常にあってほしいもの」

東京タワーを間近に臨み、新旧さまざまなオフィスビルが立ち並ぶ芝公園エリア。周辺にはホテルや昔ながらの個人商店、住居も点在し、ワーカーに限らず観光客から地元住民まで多様な人々がひっきりなしに行き交うこの街で、コーヒーと日本茶の2枚看板を掲げる「Lit COFFEE&TEA STAND」が店を構えたのは2020年のことでした。

「描いたのは、『あるといいな』がある店」

そう語るのは、オーナーの吉田直矢さん。かつて、下北沢で15年間レストランカフェを手がけていた彼が、この地で新たに「街の人に長く愛される、地域に根付いた店をつくりたい」と考えたとき、コーヒーと共に自然と選択肢に挙がったのが日本茶だったといいます。

「デイリーに使ってもらえる店であるために、日本人が日頃何を飲んでいるかをあらためて考えてみると、『なんだかんだでみんな、お茶は飲むな』という結論に至ったんですよね。コンビニでお弁当を買うとき、旅行で電車に乗るとき……、無意識かもしれないけど自然と手に取っている。それってやっぱり、日本茶なんです」

カフェ激戦区・東京で淘汰されないためにも、単に美味しいコーヒーを提供するスタンドではなく、「自分たちの色」をプラスしたかったと振り返る吉田さんは、その両方が叶う日本茶の世界へと足を踏み入れました。

「インバウンド需要も念頭に起き、日本ならではのカフェのテイストを提案したいという気持ちもあった」(吉田さん)

 

苦い経験からたどり着いたバリスタとしての日本茶のアプローチ

Litが今、この場所から発信するのは「バリスタらしい日本茶のアプローチ」です。コーヒー用のエスプレッソマシンで抽出する「ほうじ茶エスプレッソ」をベースに、「ほうじ茶エスプレッソラテ」や「オリジナルブレンドの抹茶ラテ」、コーヒー×抹茶のオリジナルドリンクなどをそろえ、コーヒーと同じ感覚で楽しめる日本茶のランナップを展開しています。

とはいえ、ここにたどり着くまでは多難の道だったと振り返る吉田さん。実はオープン当初は、単一品種の煎茶を複数そろえてシーズンごとに入れ替えたり、抽出方法や提供方法を変えてはプロモーションをかけたりと、日本茶カフェをならった提案もしていたそう。

しかし、長くコーヒー畑に身をおいていた自分やバリスタたちが、コーヒーとまったく同じクオリティで日本茶を提供するハードルは高く、さらに現実問題として、「それなりの金額を支払って、ストレートの煎茶1杯を味わいたい」というニーズは、ここを訪れるお客様にはないという事実を目の当たりにしたというのです。

「この経験はすごく大きかったですね。日本茶業界の方には厳しい話かもしれませんが、僕らのようなコーヒースタンドスタイルの店に親しみを持つお客様はまだそこまで求めていないんだと知らされました。

でも今思えば、僕ら自身もシングルオリジンを謳った煎茶を前面に出したり、ニッチなものをラインナップしたりすることで、ちょっと格好つけていた部分があったのかもしれません。気楽に来てといっている割にこっちが構えていたというか……。みんなもっと、気軽に日本茶に触れたいんだと、お客様に教えていただいた気がします」

ただ同時に、抹茶やほうじ茶に限らず、一定層の日本茶ファンがいるのは間違いないとも吉田さんはいいます。日本茶を使ったスイーツやラテはコンスタンスに需要があり、ブームではなく今や定着しつつある、と。

だからこそLitでは、日本茶をアレンジドリンクやスイーツに落とし込むことで親しんでもらおうという発想にシフトチェンジ。「日本茶のスペシャリストを目指すのではなく、コーヒーで培った技術で日本茶を表現・提案する」。吉田さんは今そんなふうに日本茶と向き合っていると話してくれました。

 

クオリティに妥協なし。ものづくりの原点は「誰に届けたいか」

現在、「抹茶のチーズケーキ」や「抹茶ラテ」などのいわゆる“定番”から、「狭山茶の煎茶プリン」「ほうじ茶薫るモンブランティラミス」「オリジナル抹茶のミリタリーゼリーラテ」といった独創的なものまで、お客様目線に立った自由な発想で日本茶メニューをラインナップするLit。そのひとつひとつに妥協は一切ありません。

たとえば、シグネチャーである「ほうじ茶エスプレッソ」は、カネイ一言製茶(静岡県)が特別に焙煎・粉砕(グラインド)するオリジナルの茶葉を使用し、コーヒー用のエスプレッソマシンで1杯ずつ抽出。当初はほうじ茶パウダーも検討したといいますが、口当たりのザラつきやスチームドミルクとの一体感を考えると、やはり液体抽出は譲れなかったのだそう。

一方で、そんなマシン抽出のための茶葉は、納品の度に非常にシビアな調整を伴うのも事実です。同じオーダーをして製造された茶葉を同じように抽出しても、ロットによって味の出方や仕上がりが大きく異なるため、毎回、仕入元である製茶問屋とキャッチボールを繰り返しては挽目を調整してもらったり、店側のマシンで温度やグラム設定を変えることでリカバーしたりと、細かなやり取りをしなければならないといいます。

「この作業や、オーダーに細かく応えてもらえる製茶問屋探しはすごく大変です。ただ、ビジネスライクに聞こえるかもしれませんが、味はもちろん、見た目の美しさや色味、そしてコストバランスのすべてを考慮し、自分たちが表現したいものとお客様が求めるものをすり合わせて着地点を決めなければなりません。デイリーで使ってもらうためには、クオリティも価格も大事ですからね。

自家製エスプレッソゼリーと抹茶を合わせた「ミリタリーゼリーラテ」。抹茶は、ラテには、ラテアートに適した八女の抹茶と宇治の抹茶を独自でブレンドし、すりつぶすように点てることで鮮やかな色味と美味しさを両立させる

加えてもうひとつ、僕らはオペレーションへの対応力も重視しています。オフィス街で観光地という土地柄、仕事の合間の限られた時間やテイクアウト、デリバリーの需要も非常に多い。提供スピード、味の変化への対応も満足度に大きく関わりますから」

提供時間を短くするために細かく挽き方を指定し、通常より茶葉は多めに使用。テイクアウトやデリバリーにおける味の劣化も考慮して茶葉を厳選するほか、原価を考えるともちろん仕入れの工夫も必要に。

抽出方法や温度は基本に則りつつ、過去には冬場にホットの煎茶をオーダーしたお客様から「ぬるい」といわれ調整したことも。「考えさせられますよね」(吉田さん)

いいものを適正な価格で提供することを大前提としつつ、「ものづくりの原点は常に 『誰のためにつくるものなのか、誰に喜んでほしいのか』にある」というのが、吉田さんの考えです。

コーヒーや日本茶が、誰がどこでどんな気持ちでつくられているのかを知り、そこに自分たちが表現したいものをリンクさせ、どんなシーンでどんなお客様に楽しんでほしいのかを考えてひとつのものをつくり上げる。「日本茶の素晴らしさを伝えたい」という大きな大義名分ではなく、やはり「あるといいな、がある」ことがLitの日本茶へのアプローチ。

「親しみやすくて安心感もあって、でも時にはトレンドが感じられたり新しい発見があったりする。専門店じゃないからこそ、お客様が自然に触れやすいかたちで日本茶を表現できればいいなと思っています」

Lit COFFEE&TEA STAND

文・RIN  写真・松島 星太