日本茶をカルチャーに
自由な価値観で“遊ぶ”
楽しさがあっていい
代官山「TEA BUCKS」

日本茶をカルチャーに
自由な価値観で“遊ぶ”
楽しさがあっていい
代官山「TEA BUCKS」

日本茶をカルチャーにする。そんなコンセプトを掲げる日本茶スタンド「TEA BUCKS」の店主・大場正樹さんは「日本茶は、歴史や伝統に則った固定概念に縛られるのではなく、自分なりの価値観で捉えて、誰でも自由に表現していい」と提言します。“カルチャー”という言葉を紐解くと、大場さんならではの日本茶との向き合い方が見えてきました。

素人から日本茶の世界へ。
フラットな立場だからこそ感じた違和感

代官山駅から5分ほど歩いた住宅街の一角。無機質ながら風格が感じられるコンクリート壁のビルの1階に、「TEA BUCKS」(ティー バックス)はあります。入り口の向こう側には、パッチリと目を見開いた鹿の剥製と妖艶な光沢を放つベルベット生地のハイチェアが並ぶカウンター。そして、腕からタトゥーを覗かせてお茶を淹れる店主・大場正樹(おおば まさき)さんの姿が。

独特の雰囲気を放つその空間に「日本茶カフェらしくない」と感じる方もいるかもしれません。では、“日本茶らしい”とは一体どういうものでしょうか?

「日本人って不思議なもので、普段は無意識なほど当たり前に日本茶に触れているのに、実はお茶について詳しいことは何も知らない。その割に、伝統や歴史に則った“こうあるべき”という固定概念だけはものすごく強い(笑)」と大場さんは語ります。

好きなものをただ並べたという店内。「こういう茶室があってもいいでしょ?」

老舗の茶商の跡継ぎでも茶農家生まれでもない大場さんにとって、数年前まで日本茶は、多くの人と同じように日常的に喉を潤す水分にすぎませんでした。しかし脱サラをして世界に旅に出たとき、日本ではそこかしこに溢れていたお茶が手に入らず、いかに自分の生活の中で重要だったかを痛感したといいます。

さらに大場さんが「衝撃的だった」と振り返るのは、帰国後に訪れた京都で口にした玉露。「自分が知っているお茶とは全く違いました。お茶というよりも、まるで出汁。旅でお茶の存在の大きさを思い知ったところだったのに、実は自分はお茶について何も知らない、ただの知ったかぶりだったんだと突きつけられた気持ちでした」。


すぐさま茶器を揃え、さまざまな種類・品種の茶葉を買ってはネットや書籍の情報をもとにお茶を淹れるところから探求をスタート。専門店で本格的に日本茶を学び、茶農家へも多く足を運んできた大場さん。

店を開くに至った一番の動機は、何より「お茶が飲みたい」と思ったときに出かける場所の選択肢がなかったからだといいます。当時、日本茶店といえば、和菓子付きのコースを2,000〜3,000円で提供する茶室のような店ばかり。「率直に『なんで?』って。お高くとまっていないで、もっと今の時代に合ったアプローチでお茶を提案する店があってもいいんじゃないかと思ったんです」。そこで掲げたコンセプトが、“日本茶をカルチャーにする”でした。

 

“日本茶はカルチャー”。自由な価値観で
ライフスタイルに取り入れるもの

そもそもカルチャーという言葉から、何を連想しますか? カルチャーの代表格といえば、音楽、アート、ファッションなどが思い浮かぶでしょうか。大場さんは、日本茶はそれらと同じ立ち位置にあるものだと捉えています

好きなジャンルの音楽や憧れのブランドのファッションを、その時々の気分やライフスタイルに合わせて自由に生活に取り入れるように、日本茶も自分なりの価値観で身近に楽しむもの。「けっしてタダ同然に扱われるものでも、『こうあるべき』という絶対的なルールの下にあるものでもないと思っています。もちろん、伝統や歴史、生産者に対してはものすごくリスペクトしています。でも伝統をただそのまま継承するだけじゃなく、今の時代に合った価値観や解釈があってもいいじゃないですか」。

シーンに合わせていろいろな食材とミックスしたり、お気に入りの味や新しい飲み方を誰かと共有したり、時には意見をぶつけあったり。他ジャンルのモノ・ヒトとコラボレーションを楽しんだっていいし、仲間やコミュニティをつくることもできる。「日本茶を通してさまざまな人とつながり、日本茶でもっと“遊び”たい」と大場さんはいいます。

 

今の時代に合った価値観と解釈、
アプローチで日本茶を提案したい

「BUCKS=お金」の意。価値があるものということを表現する

実際にTEA BUCKSでは、品種や産地だけではなく、あらゆるアプローチでお茶を提案しています。ティーカクテルを豊富にラインアップするほか、「運動後に一杯…」「怒りで満ち溢れた時に一杯…」「タバコを吸った後に一杯…」など、まるで処方箋のようにシーンで選ぶティーバッグを展開。あえて一癖効かせた設定も、ライフスタイルに取り入れやすいようにという彼なりの“遊び”のひとつです。

レモングラスをブレンドしたほうじ茶と梅酒をかけ合わせた「レモングラスほうじ梅酒」

また、自転車ブランドや映像クリエイターとのコラボイベント、お茶と音楽のペアリングなども手がけ、積極的に他業種とも交流を図ります。カルチャーとしての日本茶は、年齢、性別、国籍を越え、さまざまなひととつながるコミュニケーションツールにもなり得るのです。

それは、アウトプットの場だけではありません。生産者と関わるときも同じ。現在店では15種類の茶葉を扱っていますが、すべての茶農家のもとへ足を運び、農作業、食、住を共にしながら、その仕事と熱量を共有することを欠かさないという大場さん。なぜならお茶には必ず“人間味”が表れるから。

「今生き残っている農家さんは、命懸けでお茶をつくっている方ばかり。だからこそ、味だけ見れば美味しくないはずがない。そんな中でもどの農家さんと関わるかは、お茶づくりに表れる人となりや、その熱量をまた誰かに伝えたいと思えるかなど、自分の価値観との相性を大事にしています」。

 

「日本茶の世界で一緒に遊ぼう」

プレイヤーが増えれば、日本茶の未来は変わる

新しい農家と出会うきっかけは農家からの紹介の他、積極的に都内のイベントにも出かけて声をかけるという

大場さんは「日本茶の魅力は、伝統や美味しさだけではない」と、臆することなく繰り返します。お茶に親しみがない人にとっては、品種や産地、製法という指標よりも、もっと“自分ごと”として捉えられる別のアプローチが必要だというのです。だからこそ、自由に日本茶を表現する個性あふれるプレイヤーが増えてほしいといいます。「他の人が日本茶をどんなふうに表現するのか、僕自身も見てみたい。どうせなら、誰も想像しなかったような飛び抜けた楽しみ方を生み出してほしいですね。選択肢が増え、ますます交流が活発になれば、日本茶の未来は必ず変わります」。

日本茶は、けっして代々続く茶業界だけのものではなく、どんな人でも自由に楽しめるもの。だからみんな、日本茶の世界に飛び込んで一緒に“遊ぼう”。大場さんの言葉からは、そんなメッセージが感じ取れます。日本茶の可能性はまだまだ未知数。“日本茶をカルチャーにする”仲間が増えれば増えるほど、日本茶の知られざる魅力はさらに見えてくるはずです。

TEA BUCKS

住所:東京都渋谷区恵比寿西2丁目12-14
営業時間:11:00〜23:00
定休日:月曜日
https://teabucks.jp/

Photo: 吉田浩樹
Interview & Text: RIN