煎茶の製造工程
ー 生葉から煎茶が
できるまで ー

煎茶の製造工程
ー 生葉から煎茶が
できるまで ー

お茶処の春の風物詩といえば、一面鮮やかな緑で覆われた美しい茶畑。そこで摘み取られた葉は、どのようにして見慣れた“茶葉”になるのでしょう。茶の生理生態から栽培・製茶技術まで、お茶についてさまざまな研究を行っている「農研機構 金谷茶業研究拠点」を訪れ、煎茶ができるまでの工程を聞きました。

お茶づくりは「荒茶」と「仕上げ茶」の2段階に分けて行う

お茶づくりは大きく2段階に分けて行います。1段階目は、摘み取ったばかりの葉を「荒茶(あらちゃ)」と呼ばれる一次加工品にする工程。比較的茶畑に近い工場で行い、茶葉を乾燥させたり揉んだりしながら味の基礎をつくっていきます。この段階ではまだ形が不均一で水分も多く、一般市場に出回ることはほとんどありません。荒茶をさらに乾燥させ、選別したりブレンドしたりして製品に整えるのが2段階目の仕上げの工程です。仕上げ加工は、産地から離れた製茶問屋で行うことも多く、消費地の嗜好や市場のニーズに合わせて最終的な味をつくっていきます。こうしてできあがった「仕上げ茶」が、製品として店頭に並ぶお茶です。

ここでは代表して、煎茶ができるまでの流れを見ていきます。

 

【荒茶をつくる】

荒茶は仕上げ茶の“原料”。味の基礎はここで決まる

荒茶づくりは、「①摘み取り」「②蒸熱(じょうねつ)」「③粗揉(そじゅう)」「④揉捻(じゅうねん)」「⑤中揉(ちゅうじゅう)」「⑥精揉(せいじゅう)」「⑦乾燥」の7工程を、それぞれ専用の製茶機械を使って行います。聞き慣れない言葉が並びますが、主に「揉む」と「乾かす」の繰り返し。1ターンあたり3〜4時間ほどかけて加工していきます。

荒茶はいわば仕上げ茶の基礎となるもの。ここでの加工がその後の味に大きく影響するため、職人は、自分が目指す味に合わせて各工程を細かく管理しています。

 

① 摘み取り:摘み取ったあとでも葉は生きている

毎年4月の上旬ごろになると、新芽が出た茶葉の摘み取りが始まります。摘み取ったばかりの鮮度のいい葉はまだ呼吸をしているため、たくさん積み重ねておくと次第に熱を帯びてしまいます。できるだけ早く次の蒸熱の工程へとすすめますが、一度に生産ラインに流しきれない場合は、冷たく湿った空気を送りながら一時的に貯蔵します。

②蒸熱:蒸し時間は職人の腕の見せどころ

次に、生葉の中にある酸化酵素の働きを止めるために蒸気を使って加熱します。これにより、鮮やかな緑色が保たれるほか、青臭さを除いたり、緑茶固有の香味を引き立たせたりすることができます。蒸熱時間は30~120秒程度と幅広く、茶葉の状態や求める味に合わせて職人が見極め、その時間を決めます。むらなく蒸熱したあと、速やかに冷却します。

③粗揉:揉むことで葉から水分を出し、それを乾燥させる

1回目の乾燥です。グルグルと回るアームで茶葉を揉みながら、熱風を当てて乾燥させていきます。揉むことで茶葉から出てくる水分と、熱風で飛ばす水分量を同じにすることがいいお茶をつくるポイントです。

④揉捻:加圧してさらに水分を出し、乾燥度合いを整える

大きな分銅で茶葉に一定の力を加えながら、今度は熱を加えずに揉んでいきます。硬さや厚さの違いから葉と茎の乾燥度合いが異なるため、その水分量の差を整えます。

⑤中揉:味の基礎づくりの最終工程

2回目の乾燥です。③の粗揉と同じように、ふたたび揉みながら熱風乾燥させます。ただし、1回目の乾燥工程により茶葉の水分量は減少しているので、その容積は小さくなっています。ここまでの工程で、製茶の出来栄えはほぼ決まります。

⑥精揉:揉みながら形を整える

ここからは主に形を整えていく作業です。茶葉の下から熱を、上からは力を加えて、乾燥・加圧しながらほつれあっている茶葉をほぐし、針のような形によっていきます。

⑦乾燥:出来上がった荒茶の重量は1/5に

最後にもう一度、熱風を当てて茶葉を乾かします。水分率が5%ほどになるまで乾燥させたら、荒茶の完成です。この時点で、茶葉の重量は生葉の約1/5にまでなっています。このように段階的に揉み・乾燥を繰り返すことで、ムラなく、そして茶葉にも機械にも少ない負荷で加工することができます。

収穫時期には毎日、数回転は行うという荒茶づくり。大変手間がかかる作業ですが、これでも製品としては未完成です。工場でつくられた荒茶は、各地の製茶問屋のもとでさらにその味に磨きをかけ、美味しいお茶に仕上げられます。

 

【仕上げる】

火入れが味づくりの鍵

仕上げは、荒茶から不純物などを取り除き、お茶の香味や味わいをより引き立てる工程です。使用する荒茶の特徴を深く理解し、状態を見極め、それぞれに合った加工を施さなければなりません。“いい素材をどのように磨き上げるか”は、茶師の手にかかっています。

① 選別・ふるい分け:葉の大きさや部位ごとに細かく分ける

さまざまな大きさ・硬さの葉、茎などもすべて含まれている荒茶をふるいにかけ、5〜6種類のパーツに一度分類します。この後の火入れの際に、乾燥度合いが異なるそれぞれのパーツに適した加工を行うためです。同時に枝などの不純物も取り除きます。

選別したものは大きく「本茶」と「出物」に分けられ、茶葉の中心部分である「本茶」は煎茶や玉露に、それ以外の茎や芽、粉などは「出物」として、主に茎茶、芽茶、粉茶などになります。

②火入れ(乾燥):火入れで魅せる茶師の技量

選別したパーツを、それぞれの状態に最適な温度で乾燥させていきます。茶葉にテリが出て色味が深くなり、また香りも一段と増します。その頃合いによって最終的なお茶の味が決まる火入れの工程は、茶師の腕の見せ所です。火入れの強弱には地域による傾向もあり、たとえば宇治茶はやや浅めに火入れをすることで青みのある香りを残し、逆に狭山茶はしっかり火を入れて香ばしい香りに仕上げます。5%ほどだった水分率を、3%程度にします。

③仕上げ:ブレンドにもシングルオリジンにもそれぞれの魅力がある

パーツごとに仕上げた茶葉は、味、香り、色などのバランスを考えながら、同じ荒茶からつくられたものだけでなく、生産された時期や場所が異なるものもさまざま混ぜ合わせて、最終的な製品に仕上げます。どのような茶葉をどうブレンドするかも味の決め手です。いい色味の茶葉、旨味の強いお茶葉、香りが豊かな茶葉を組み合わせて、色・味・香りのバランスがとれた茶葉をつくるといったことが可能になります。近年は合組をせず、品種そのものの味をシンプルに味合うことができる“シングルオリジン”も人気です。

④包装:いよいよ小売店へ。こうして煎茶は手元に届く

仕上茶を計量して、袋や茶箱などに詰めたら完成です。包装材や包装方法の工夫も進んでおり、酸素や匂い移り、光などを遮るために、空気を抜いたり窒素ガスを注入したりしながらその品質・鮮度を保っています。

 

同じ茶園や工場でつくられた荒茶を使っても、地域や茶師によって仕上茶の味わいは異なります。ぜひ旅に出かけた際には、そんな美味しさの違いも感じ取ってみてください。

写真・吉田浩樹
文・山本 愛理