美濃白川茶の茶師
田口雅士さんに聞く
冷茶の淹れ方

美濃白川茶の茶師
田口雅士さんに聞く
冷茶の淹れ方

日本茶は、全国各地でその地の風土や食文化などに合わせて親しまれてきました。いわばお茶は暮らしと共にあるもの。今回は、茶産地のひとつ岐阜県東白川村の茶師・田口雅士さんに、夏の涼である冷茶の淹れ方と、ライフスタイルに合わせた冷茶の楽しみ方を教えてもらいます。

東白川村で受け継がれる、高地ならではの茶づくりと茶の楽しみ方

日本各地で、その地の気候や食文化と共に人々の暮らしに根付いてきた日本茶。450年以上の歴史を持ち、岐阜県白川町と東白川村を中心に栽培される「美濃白川茶」もそのひとつです。

美濃白川は国内の茶の主産地のなかでも標高約500mと高地で栽培されるのが特徴。昼夜の寒暖差が大きいことや茶の生育に適した水捌けの良い地質を持つことから、すがすがしい香りとキレのある渋味・苦味を併せ持った質のいい茶が育ちます。

「厳しい自然環境の中で木々が一生懸命に生きようとする分、力強くさわやかな香気の茶に育つんです」。そう語るのは、東白川村の「(有) 新世紀工房」に勤める茶師・田口雅士さん。

田口さんは美濃白川茶発祥の地・東白川村で3代続く茶農家に生まれ、現在は茶園主として茶畑に立ちながら、美濃白川の茶農家から仕入れた荒茶を製茶・合組して展開するブランド「茶蔵園(さくらえん)」を手がけたり、「美濃加茂茶舗」「添い」など次世代の新たな日本茶ブランドを監修したりと美濃白川茶の流通拡大や普及に同茶師の森本健二さんと共に尽力しています。

田口さんの祖父が開梱した茶園は小高い丘に円を描くように造られており、「ぐるぐる茶園」の愛称で親しまれている

田口さんは、日本茶は地域の暮らしと密接に結びついていると語ります。「たとえば、寒冷な気候のこのあたりではやや野性味がある力強い味わいの茶が育ち、それに負けないようお茶請けは甘味(かんみ)ではなく塩気の利いた漬物が定番です。名産地に限らず日本茶は古くから日本各地で生活の一部として根付いてきたもの。その地の文化とは切り離せないものだと思うんです」

そこで今回は田口さんに、日本の夏の涼として親しまれてきた冷茶の淹れ方を教えてもらいながら、田口さん自身がどのように暮らしに取り入れているのかをうかがいました。冷茶には主に「急冷」「水出し」「氷出し」の3種類の淹れ方があり、少しずつ味わいが異なります。ぜひご自身のライフスタイルに合ったものを見つけてチャレンジしてみてください。

 

1. 急冷(オン・ザ・ロック)

「急冷(オン・ザ・ロック」は、湯でやや濃いめに抽出した茶を、氷で急速に冷やす方法です。湯で浸出させる(浸出温度が高い)ために豊かな香りを楽しむことができ、渋味と苦味のあるキレのよい冷茶に仕上がります。

 

【用意するもの】


・急須
・茶葉 6g
・湯(90℃) 150cc
・氷 適量

①急須に茶葉と湯を入れ、30秒間浸出させる

はじめにやや濃いめのお茶を淹れます。急須に茶葉を入れて湯を注ぎ、30秒間浸出させます。

基本の煎茶の淹れ方では70〜80℃の湯を使いましたが、より高温・短時間で淹れることで、美濃白川茶特有の豊かな香りと渋味・苦味を引き出すのが田口さん流。ほかの茶種を使う場合や渋味・苦味を抑えたい場合は、湯温は80℃、浸出時間は1分を目安にしてください。

 

②急速冷却する

氷を入れたグラスにお茶を注いで冷やします。最後の一滴まで旨味が凝縮しているので、しっかりと急須を立てて注ぎきります。

急冷は、飲みたいと思ったときに好きな量だけすぐに淹れられるので、仕事や家事の合間のティーブレイク、急な来客の際などにおすすめです。スッキリとリフレッシュしたいときには、渋味が強めの茶種を高温の湯でサッと淹れ、塩気の利いた漬物などと一緒に。ほっと一息つきたいときには、低温の湯でゆっくりと茶の甘味・旨味を引き出し、上品な干菓子などと合わせるとよいでしょう。

 

2. 水出し

「水出し」は水に長時間浸出させることでじっくり時間をかけて抽出する方法です。水は温度が低いため、甘味や旨味が引き立ったまろやかな味わいになります。一方で、浸出時間が比較的長いことからほどよい苦味と渋味も持ち合わせ、スッキリとしたのどごしに仕上がります。

 

【用意するもの】


・フィルターインボトル
・茶葉 12g
・冷水 750cc

 

①ボトルに茶葉を入れ、冷水を注ぐ

フィルターインボトルに茶葉を入れ、冷水を注ぎます。

 

②冷蔵庫に入れて浸出させる。2〜7時間が目安

そのまま冷蔵庫に入れて、2〜7時間ほど浸出させます。さっぱりとした味わいに仕上げたい場合は2〜3時間、やや深めの味わいにしたい場合は6〜7時間が目安です。

水出し冷茶は、いつでも飲めるようたっぷりの量を作って冷蔵庫に常備しておくのが田口さんのおすすめだそう。「僕のレシピは少し茶葉が多めです。夏の暑い時期は、のどが渇いたらがぶがぶ飲みたいでしょう? 茶葉を多くすることで浸出時間を短くできるので、足りなくなりそうになったら短時間で作れますし、飲みきってしまったら冷水を足して二煎目を淹れることもできます。二煎目は茶葉がすでに開いているので、20分程度で抽出できます」。

冷蔵庫においておくだけなので手間なく作れることも水出し冷茶のいいところ。寝る前に仕込んで目覚めの一杯に、朝一で作って昼食時や夕食時にと、生活リズムや好みの味わいに合わせて取り入れてみてください。

 

3. 氷出し

「氷出し」は、氷を使って少量のお茶を抽出する方法です。水出しよりさらに低い浸出温度で、かつ短い時間で淹れるために、渋味・苦味はほとんどなく甘味・旨味が凝縮した冷茶に仕上がります。コーヒーで例えるとエスプレッソのような深く濃厚な味わいを楽しむことができます。

 

【用意するもの】


・片口碗(茶碗やマグカップなどでも可)
・茶葉 6g
・氷 3個

 

①茶葉の上に氷をのせる

片口碗に茶葉を入れ、その上に氷を直接のせます。

 

②10〜15分間、浸出させる

そのまま常温で10〜15分ほどおいて浸出させます。時間を短縮したい場合は、少し冷水を足すと5分ほどで抽出できます。飲むときは、抽出したお茶を別のグラスに移し替えるとよいでしょう。茶葉が流れ込んでしまう場合は茶こしなどを使ってください。

急冷よりも少し時間はかかりますが、茶葉が持つ甘味・旨味が極限まで引き出された味わいは、他の淹れ方では出会うことができない美味しさ。渋味成分と同様にカフェインも、湯の温度が低いほど溶け出しにくいという性質を持つため、その量を抑えることができ、寝る前のリラックスタイムなどにおすすめです。

 

茶農家直伝! 夏のまかない茶「塩入り冷茶」

最後に、田口さんが畑仕事をする際によく飲むというオリジナルのアレンジ冷茶「塩入り冷茶」を教えてもらいました。

 

【用意するもの】


・急須
・水筒(350ml)
・茶葉 10g
・湯(90℃) 200cc
・氷 適量
・塩 ふたつまみ

 

①急冷方式で冷茶を淹れる

まずは1と同じ急冷の方法で冷茶を淹れます。急須に茶葉を入れて湯を注ぎ30秒間浸出させたら、氷を入れた水筒にお茶を注ぎます。しっかりと急須を立てて最後の一滴まで注ぎきります。

 

②塩を加えて混ぜる

塩を加え、水筒のフタを閉めてよく振って、お茶、氷、塩をなじませます。

「僕は、茶畑で作業をするときの“まかない茶”として飲んでいます。夏場は水分だけでなくミネラルの補給も大切です。これなら漬物や梅干しなどのお茶請けがなくても塩分を摂ることができますし、持ち運びにも便利です。スポーツやレジャー、通勤・通学時の水分補給に活用してもらえれば」(田口さん)

日本茶は、日本の伝統であり産業であると当時に、常に生活の中で親しまれてきた文化のひとつです。それぞれの食生活やライフスタイルに合った淹れ方、味わいのものを取り入れてみてください。

 

教えてくれた人|茶師 田口雅士さん


田口雅士(たぐち まさし)。美濃白川茶発祥の地・東白川村で3代続く茶農家の生まれ。高校卒業後、国立茶業試験場(現 農研機構 金谷茶業拠点)や静岡県の茶商での経験を経て、東白川村の第3セクター「(有)新世紀工房」へ就職。茶師として幅広く活躍する一方で、茶の栽培も行う。

写真・吉田浩樹 文・山本愛理