急成長する「和紅茶」
その魅力と可能性

急成長する「和紅茶」
その魅力と可能性

近年、カフェや紅茶専門店でも頻繁に見かけるようになった和紅茶。その定義やインドやスリランカ産の紅茶との違いを知っていますか? 今回は和紅茶ならではの魅力や楽しみ方、日本での生産の現状など和紅茶の基礎を、紅茶輸入販売「t-break」代表であり、紅茶専門店「chai break」オーナーの水野学さんに伺いました。

ここ数年で和紅茶の品質が飛躍的に向上

吉祥寺駅から徒歩5分、井之頭公園にほど近い小径に佇む「chai break」。紅茶の輸入卸に長年携わる水野学さんが、紅茶の魅力をカジュアルに発信したいと2009年にオープンした紅茶専門店です。

歴史ある名喫茶店だった建物をそのまま生かしたノスタルジックな空間で楽しめるのは、水野さんが年に数回、インドやスリランカに足を運び、買い付けてくるシングルオリジンの個性あふれる多彩な紅茶。そのラインナップに和紅茶が登場し始めたのは2017年頃のことです。

「和紅茶はここ数年で品質が飛躍的に向上しています。国産紅茶のコンテスト『プレミアムティコンテスト』の審査員を務めているのですが、同じ作り手が年々進化しているのを感じます。そこでティスティングして、これはおいしいと思ったものを店で扱うようになりました」と水野さん。

一般的に、和紅茶(国産紅茶)の定義は、日本で生産され、加工された紅茶のこと。その歴史を紐解けば、明治期までさかのぼります。紅茶生産国として世界と渡り合おうとしていた明治政府が、紅茶の生産を奨励していた時期を経て、世界情勢のなかで他国に太刀打ちできず、生産は下火に。1990年代以降、生産量は少しずつ増加傾向に転じ現在に至るわけですが、なぜ今そういった大きな動きが起きているのでしょうか。そこには現在の日本茶市場が関係していると水野さんは分析します。

次世代の茶農家が模索をはじめた、“日本茶以外の強み”

「日本茶の価格が下がってきているなかで、新たな試みとして紅茶も手掛ける茶農家が増えています。代々続く茶農家の新世代が、“先代とは何か違う強みを”と取り組む場合も多く、高い志を持った彼らが、台湾や中国にお茶の勉強に行く、という動きも活発になっている印象です」。

2015年には、水野さんを含む輸入者や生産者が集まり、国内外のシングルオリジンティーの振興を目的にした「シングルオリジンティーフェスティバル」がスタート。このフェスティバルには国内生産者の出展も多く、また紅茶の製造も盛んになりつつあったことから、フェスティバル内の企画の一つとして国産紅茶だけを審査する「プレミアムティコンテスト」が2016年に始まりました。

「日本人は勉強熱心で真面目ですから、よりよいものを作ろうと努力を惜しまないですよね。それが近年の急速な品質向上に繋がっていると思います」。

同時に、消費者の食品に対する国産志向も後押ししているのでは、と水野さん。t-breakの卸先のひとつであるフレンチレストランでは、地産地消への意識が高い消費者が増え、シェフ達も国産の紅茶を好んで使う傾向にあるのだとか。水野さん自身も、「今後は例えば、干し芋や干し柿といった、茶栽培の合間に育てる農作物と、そこで栽培されたお茶とのペアリングなども提案できたらなと思っています」と語ります。

変化する味わいや熟成を楽しめるのが和紅茶の魅力

さて、消費者としては「和紅茶」と「外国産紅茶」の違いが気になるところ。大きな違いはあるのでしょうか。

「お茶は農作物なので、茶葉が育った土壌や気候、栽培方法や加工方法によって個性が一つひとつ異なります。国産か外国産かというよりは、生産者ごとにそれぞれのキャラクターがある、というのが大前提です。

近年のプレミアムティコンテストで高い評価を得ているお茶の特徴のひとつは、製造工程においてできるだけ原葉の形を残して作られるホールリーフを採用しているものが多いこと。インドやスリランカなどの南アジアで作られる紅茶の多くは製造設備や生産効率のため、そして消費者の嗜好に合わせる形で葉をちぎって製茶されます。ホールリーフの場合はじっくり抽出されるので、味わいは繊細でまろやかな傾向にあり、日本茶のように一煎目、二煎目と変化する味わいを楽しむことができます」。

ということは、急須で淹れたり、茶器による味の違いを楽しんだり、といった日本茶的な味わい方もできるということ。「そういった点も、ホールリーフで繊細な味を引き出す和紅茶ならではの魅力といえますね」。

また、熟成によって味が変化するのも和紅茶の魅力。「春や夏に作られたものが秋冬を迎えて甘みが増して香り高くなったりするのです。その茶葉の種類や茶農家での熟成期間にもよって変わってくるので、それも和紅茶ならではの面白いところです」と水野さん。

いわば、熟成に耐えうる高級ワインのような印象の和紅茶ですが、なぜそうなるのか、どういった熟成をしていくかは、水野さん自身、まだまだ探求中とのことで、そこに和紅茶をもっと楽しめる要素が潜んでいそうです。

ここ数年で飛躍的に品質が向上しつつも、まだ発展途上中の和紅茶業界。日本茶の傍ら紅茶を製造するという生産体制のため、大量生産ができないといった課題もかかえていますが、和紅茶ならではの魅力にフォーカスすれば、今後のニーズはますます高まりそうです。水野さん自身も和紅茶の秘めたるポテンシャルを深堀りしていきたいと語ります。

 

 

教えてくれた人| 水野 学さん

t-break代表・chai breakオーナー。勤めていた紅茶店の茶葉の買い付けに同行し始めたことで、2001年t-breakを立ち上げ、紅茶の輸入販売をスタート。通信販売や卸しをする中で、「紅茶をもっと多くの人に日常的に楽しんでもらいたい」という想いから、2009年chai breakをオープン。2015年からは産地や作り手が見える紅茶を集めた“シングルオリジンティーフェスティバル”(現在のジャパン・ティーフェスティバル)を同業3社と企画。国産紅茶を対象とした「プレミアムティコンテスト」の審査員を務める。

・t-break
HP:http://www.t-break.com/

【取材場所】 chai break
住所:東京都武蔵野市御殿山1-3-2
電話:0422-79-9071
営業時間:9:00~19:00 土日祝8:00~
定休日:火(祝祭日の場合は翌営業日)
HP:http://www.chai-break.com/

写真・吉田浩樹 文・尾崎 美鈴