茶袋で人と人の心をつなぐ。“世界一のパッケージ”作りの舞台裏で見た3つのヒミツ

茶袋で人と人の心をつなぐ。“世界一のパッケージ”作りの舞台裏で見た3つのヒミツ

今や茶袋の役割は、単に茶葉を包装することだけではありません。繊細な日本茶の品質を保ち、デザインや形にさまざまな工夫が凝らされた茶袋は、時にブランドの象徴として、時にメッセージカードとして、“人から人へ気持ちを伝えるツール”になりました。 今回は、茶袋製造のトップランナーであり、デザイン力とデジタル印刷技術で世界一に輝いた株式会社吉村の製造現場に密着。そこには日本茶を愛し、茶業界のために汗水を流す職人たちの姿がありました。

始まりは町の茶袋店。日本茶に尽くしてきたからこそ勝ち取った、世界一の称号

日本茶の袋と聞いてどのようなものを思い浮かべるでしょうか。昔ながらの温かみある絵柄のものから、高級スイーツブランドを思わせる洗練されたデザインまで、近年はオリジナリティあふれる茶袋を目にする機会も増えました。

そんな茶袋の製造でトップシェアを誇るのが、株式会社吉村です。現代表取締役社長・橋本久美子氏の祖父が、町の茶用資材店として同社を創業したのは1932年(昭和7年)のこと。

当時茶袋は、量り売りだった茶葉を家で茶缶に入れ替えるまでの一時的な“運搬役”でしかありませんでしたが、時代の流れとともに保存性やデザイン性、個包装などが求められるようになり、その度に吉村は「茶農家や茶商たちの力になりたい」と技術を磨き、彼らの声に応え続けてきました。

同社に現存するもっとも古い茶袋。茶畑と茶の花の模様が描かれている

そうした努力が実を結び、2013年にはデジタル印刷の世界コンテスト「Dscoop(Digital Solution Cooperative・ディースクープ)」の、ラベル・軟包装などを包括するパッケージ部門でグランドウィナーを受賞。デザイン力、印刷技術ともに高く評価され、和紙を使用にしたフィルムに富嶽百景を描いた日本の茶袋が“世界一のパッケージ”に輝いたのです。

グランドウィナーを受賞した茶袋。レーヨン紙を貼り合わせた和紙風の袋に、安藤広重の富嶽百景を描いた

日本茶を心から愛し、常に茶業界のために尽力し続けることで得た世界一の称号。では、その“世界一の茶袋”製造の舞台裏を「機能性」「印刷技術」「生産体制」の3つの視点で紐解いていきます。

 

光・空気・湿気をシャットアウト! 茶葉の品質を保つ7層構造フィルム

日本茶は光や空気、湿気に触れることで劣化してしまう非常にデリケートな食品です。したがって茶袋には何よりもまず、それらから茶葉を守るという重要な役割があります。

近年の茶袋は、資材の一部にアルミを使うことで光や空気を遮断し保存性を高めたものが主流になっています。しかし同じようなアルミ素材に見える茶袋であっても、アルミニウムの微細粒子をフィルムに噴射して付着させた「アルミ蒸着フィルム」が使われているか、アルミニウムを薄く伸ばした「アルミ箔」が使われているかによって、その保存性は大きく異なります。

写真左)アルミ蒸着フィルム。扱いやすく低コストだが光を通すため、茶葉の劣化が進む。
写真右)アルミ箔。アルミ箔は光や水分、空気をまったく通さない。

食品包材として多く使われているアルミ蒸着フィルムは光を完全に遮断できず透過してしまうために保存性がアルミ箔より低く、茶葉の品質保証期間が短くなります。そこで吉村では、茶農家が丹精込めて育てた茶葉本来の美味しさを少しでも長く保てるようにと、バリア性に優れたアルミ箔、茶葉の突き刺しに強いナイロンフィルム、シール強度や作業性に優れたポリエチレンフィルムを貼り合わせたバリア性の高いアルミ複合材を採用。その上からもう1枚パッケージデザインを印刷したフィルムを貼り合わせ、接着剤を含めた全7層構造にすることでより高い保存性を実現しています。

フィルム同士の接着に水性溶剤を使用するのも同社のこだわりのひとつです。有機溶剤と違って特有の匂いがないために茶葉の香りを害することがなく、また環境負荷の軽減にもつながっています。

水性溶剤は扱いが難しく一般的には使用されていない。しかし試行錯誤の末に導入に成功。環境にやさしい工場を目指している

 

世界一のデジタル印刷技術だからこそ表現できる繊細なデザイン

こうした機能性に加え、吉村の茶袋が世界で高く評価された最大の理由は、やはりその印刷技術にあります。2005年に3代目社長に就任した橋本氏は、「エスプリ」と呼ばれるデジタルフィルム印刷の導入に国内で初めて着手し、技術開発をスタートさせました。

「2000年代に入って茶業界の低迷が進む中で、これからは個別の店やシーンに合わせた細かなニーズへの対応力が必要になる。日本茶が日常茶飯でなくなった今、手に取ることでちょっと気持ちが豊かになったり、ギフトとして人から人へ贈られたり、魅力的なパッケージを作ることで新たな日本茶の在り方が生まれるはずだと考えました」(橋本氏)

そんな志を職人たちと共にしながら約2年、試行錯誤を重ねた結果、デジタル印刷フィルムを一貫生産の強みを活かして、貼り合せ工程、製袋工程での技術を確立。デジタル印刷ならではの鮮明な印刷と従来の凸版・凹版印刷では難しかった繊細なグラデーションを軟包装パッケージで再現することで、業界に新たな風を吹き込んだのです。

繊細なグラデーションは、エスプリならでは。より繊細なデザインも美しく写し出すことが可能に

さらにエスプリは製版が不要なため、最小ロットはこれまでの10分の1に当たる1,600枚、コストは約1/8にまで抑えられ、1ロットあたりに複数のデザインをプリントすることまでもが可能に。デザイン性の高いパッケージを作りたいと思いながらも、従来の印刷方式ではロットや予算が見合わなかった個人店や、シーズナル、アニバーサリーなどスポットの要望にも応えられるようになりました。

 

業界では異例の一貫生産体制が、他社を追随させない唯一無二の強み

茶業界を取り巻く環境の変化にひとつひとつ向き合い、茶農家や茶商たちとともに歩んできた吉村。そもそも、こうしたリアルな茶業者の声を汲み取ることができるのには、他社では真似できない同社ならではの仕組みがあります。

それが、課題を抱える茶業者と直接顔を合わせ、デザイン提案から納品まで一貫して製品づくりを担うことです。実は中小規模の印刷関連企業の場合、デザイン、印刷、ラミネート、製袋などはそれぞれの専門業者が分業して行うのが一般的。しかし吉村では、課題のヒヤリングから最終納品までのすべてを請け負っており、これによってクライアント側はコスト削減・納期短縮になるだけでなく、より細かなオーダーが可能になります。

受注業者ではなく、茶業者の“パートナー”でありたい。それが吉村の想いです。茶業者とともに悩み考え、よりよい解決策を見出しながら、責任を持って製品を届ける。この一貫生産体制があるからこそ深い信頼関係が生まれ、職人たちはパートナーのために必死になって日々腕を磨き続けています。

 

真の武器は、志をともにする仲間との“チームワーク”

2021年10月現在、株式会社吉村には224名の社員が在籍しており、その全員が「茶業者のためによりよい製品を作りたい」という志をともにしているといいます。橋本社長は最後にこんなメッセージをくれました。

「かつて『パッケージは捨てればゴミだ』といわれたこともありました。でも、私はそうは思いません。デザインひとつで感謝を伝えたり、こだわりや世界観を届けたり、パッケージは言葉を発しなくても気持ちを伝えることができる素晴らしいツールです。

すべての社員でその想いを共有し、自分の仕事に責任と誇りを持っているからこそ、いいものが生まれ続けるのです。誰かの心を豊かにする茶袋やパッケージを、これからも社員全員で作っていきたいと思います」

同じ志のもと、ひとりひとりの職人たちが最大限に自分の力を発揮することで生まれる、人の心を動かすパッケージ。吉村が世界一たる真の所以は、日本茶への愛と、224名の熱いチームワークにあるといえるでしょう。

株式会社吉村

住所:東京都品川区戸越4-7-15(東京本社)
TEL: 03-3788-6111
HP: https://www.yoshimura-pack.co.jp/

商品に関するお問い合わせ先
メール:maruyo@yoshimura-pack.co.p
TEL:03-3788-611

写真・吉田浩樹 文・山本愛理