美味しさ◎栄養◎地球に◎。
茶葉を料理に使えばいいことづくし
「お待たせしました、茶葉唐揚げ定食です」
そんな声とともに現れたのは、思わず歓声を挙げてしまうほどボリュームたっぷりの主菜に、惣菜、味噌汁、ごはんがついた一汁三菜の定食。主役を飾る鶏の唐揚げをまとう青々とした衣の正体は、出がらしの茶葉です。さらに仕上げには自家製ほうじ茶塩をはらりとかけて。
原宿と渋谷のちょうど真ん中に位置する神南エリアに店を構える茶食堂「SAKUU 茶空(さくう)」では、急須で淹れた日本茶の美味しさとともに、お茶を“食べる”ことの楽しさを発信しています。
「ぜひ温かいうちに召し上がってください」と迎えてくれたのは、店長の佐藤奈緒美さん。以前は「HIGASHIYA」や「八雲茶寮」に勤め、茶種や品種、抽出方法の違いによって変わるさまざまな日本茶の味わいに触れてきた彼女こそ、茶葉唐揚げづくりに携わったひとりです。
茶食堂という場から何か新しい日本茶の楽しみ方を発信をしたい、より親しみを持ってもらえる食堂ならではのものが作りたい……。そんな考えを巡らせる中で最初に思いついたのが、出がらしを使った唐揚げだったといいます。
「やっぱり唐揚げって定食の定番じゃないですか(笑)。はじめから茶葉を使った料理を作るぞと決めていたわけではないのですが、まずはシンプルに、唐揚げに混ぜてみようというアイデアからいろいろな茶葉料理に広がっていきました」
HIGASHIYAでも玉露を飲んでいただいたあとの茶葉にポン酢と酢橘をかけて提供していた経験から、美味しく食べられることは知っていたという佐藤さん。
SAKUUでは唐揚げのほかにも、アジフライや豚バラ肉の梅肉焼き、生姜焼きにも出がらしを乾燥させた茶葉塩をトッピングするなど、茶葉を活用したさまざまな料理を週替わりで提供しています。
「茶葉を捨てることなく活用できて、豊富なお茶の栄養もまるごと摂れる上に美味しいなんて、まさに一石三鳥! “食べる”という文化がもっとたくさんの人に浸透してほしいですね。
茶葉は“食材”。茶葉料理を通じて、
新たな発見やお茶の楽しさを伝えたい
農業や畜産が盛んな山形県で生まれ育ったという彼女にとって、自然の恵みを大切にし、手元にある食材を上手に活用して美味しく食べられるようにすることは、ごく当たり前のことだったといいます。
自分たちで米や野菜を栽培したり、山に行って山菜やきのこを採ったり、川で行けば川魚を捕まえたり……。わたしたちが食べるものはすべて豊かな自然の賜物であることは、常日頃から肌で感じてきたこと。だからこそ彼女の目には、出がらしの茶葉でさえひとつの食材として写ったのでしょう。
「捨てるのがもったいないから無理やり調理しようというネガティブな考えではなくて、どちらかというと『今日冷蔵庫ににんじんが余っているな、何を作ろう?』に近い感覚だと思います。『目の前に茶葉がある、何か作れないかな』。それくらい自然な気持ちでした」
考えてみれば、茶も野菜やハーブと同じ葉物です。しかし、淹れ終えたあとの茶葉を見てどれほどの人が「美味しく食べられないのだろうか」と疑問を抱いたことがあるでしょう。佐藤さんは茶葉料理を通じて日本茶の新たな一面を伝え、日本茶におもしろみを感じてほしいと話します。
まるで和製ハーブ!
アイデア次第でレシピは無限に広がる
こうして少し話をうかがっている間にも、彼女からは茶葉を使った料理のアイデアが次々とあがってきます。ポテトサラダに入れたり卵焼きの具にしたり、フライの衣に混ぜるもよしお茶漬けにトッピングするもよし。これからの季節には、そうめんのつゆに加えるというアイデアも。
出がらしの茶葉は、特別に何か加工をする必要はなくそのまま食べられるのだそう。ひとつだけポイントを挙げるとすれば、水分をしっかりと絞ること。あとは、パクチーや大葉などの香草と同じ感覚で、混ぜるものせるも和えるもアレンジ自在です。
「わたしのイチオシは『茶ちりめんむすび』です。ご家庭にある材料だけで作れるので、ぜひ試してみてください」
作り方はかんたん。温かいごはんに、水分をきった出がらしの茶葉、ごま、ちりめんじゃこ、塩をそれぞれお好みの量加えて混ぜ、ふんわりと握るだけ。ちりめんの塩味やごまの香ばしさとともにやさしいお茶の香りが口いっぱいに広がります。朝ごはんやお弁当、お酒の〆にと万能の一品。
また、再度オーブンなどで乾燥させて「茶葉塩」にしておくと、炒めもの、揚げもの、焼き魚などの調味に大活躍! バニラアイスにトッピングすれば、ほのかな苦味と塩味で上品な味わいに仕上がると教えてくれました。
三煎まで味わい、
その茶葉を食べ終えてこそ日本茶は完結する
次から次へと出てくる日本茶の“美味しい食べ方”のアイデアに、今まで飲むという楽しみ方しか知らなかったわたしたちは、お茶の魅力のごく一部しか味わえていなかったのかもしれないとさえ思えてきます。佐藤さんは、店を訪れるお客様にも、出がらしの茶葉の美味しい食べ方や、その手前の日本茶の淹れ方ももっと伝えていきたいそう。
それは、急須で煎を重ねて楽しむ、“飲む”日本茶の美味しさを知ってほしいから。
「ひとことで日本茶といっても、品種や産地、淹れ方が違えば、味も香りも水色もまったく違いますし、一煎、二煎と煎を重ねるごとにその味わいも変化します。順序は逆になりますが、茶葉料理を入り口に、急須で淹れた日本茶をSAKUUで味わっていただいたり、自宅で淹れて最後は茶葉も美味しく召し上がったりしてもらえると嬉しいですね。
お茶として三煎までじっくり楽しめて、その茶葉を食べることですべての美味しさと栄養をからだに取り込むことができる——。つまり、日本茶は食べることで完結すると思うんです。こんなに素晴らしいものはなかなかありません」
今後は、コロナ禍でずっと足を運べなかった各地の茶農家へも訪れたいという佐藤さん。茶葉を食べるという発想そのものはけっして特別なことではなかったと語った彼女ですが、丹精込めて茶をつくる生産者への敬意や感謝は今でも常に大切にしていると話してくれました。
さあ、皆さんはどんなふうにして日本茶を“食べ”ますか? まずはゆっくりとお茶を淹れて一息つけば、美味しい茶葉料理のアイデアが浮かんできそうです。