対談
日本茶と急須の関係
青鶴茶舗 フローランさん
吉田茶園 吉田さん

対談
日本茶と急須の関係
青鶴茶舗 フローランさん
吉田茶園 吉田さん

形状やサイズも異なれば、使用する土も様々。多彩な急須があるなかで、どれを選べばいいのでしょうか? 今回は、日本の美術や歴史・文化への造詣も深い「青鶴茶舗」のフローランさんと茨城県古河市「吉田茶園」の若き7代目、吉田浩樹さんの対談をお届けします。

吉田さん(以下吉)「うちのお茶を『青鶴茶舗』に卸させていただいているご縁で、フローランさんとは知り合って約4年くらいでしょうか。僕が高校生の頃から『吉田茶園』に足を運んでくださっていますが、急須について伺うのは初めてですよね。では早速、質問させてください。急須の造り、原料となる土や産地によってお茶の味わいは変化するものでしょうか」

フローランさん(以下フ)「お客様からも『使用する土によって味の違いはありますか』という質問をよく受けます。確かにありますが、正直、形、淹れ方などに比べたらそこまで大きな違いはないという気がします。同じ場所で同じ土を使っても、作家さんによって、急須の形状は違いますよね。どちらかというと、土や産地というよりも、形状による味の違いのほうが大きいと思います。形状によってお湯の冷め方に違いが生じるので、そうすると当然うまみ・渋みの出方が変わってきます」

吉「では茶葉のタイプによって合う形状の急須は変わってくるのでしょうか」

フ「そうですね。例えば『絞り出し』と呼ばれる平たい急須は、お湯の面積が広いため冷めるのが速いですし、少ないお湯でも茶葉が横に広がり、うまみがしっかりと抽出されるので、玉露などの高級茶向きです。

一番ポピュラーな形状の『平丸』のようなものは比較的どんな茶葉にも向いていると思います。また紅茶など特に香りを楽しみたい場合には、背丈のあるものや保温性のある茶器を選んだりしますね。もちろん、これじゃなきゃダメ、ということではなくて、そのほうがその茶葉の魅力がより引き出せるということです。茶葉も急須もそれぞれが違うので、基本的には自由に楽しめばいいと思っています」

吉「紅茶をおいしく淹れるポイントとしてジャンピングというプロセスがありますが、それに反して日本茶はお湯を注いだ後、茶葉が動かないほうがいいと言われますよね」

フ「そうですね。なるべく茶葉が動かない状態でじっくりと抽出することで、うまみも渋みも香りもバランスよく抽出され、雑味の少ないなめらかなお茶になりますね。

吉「急須内の茶こし網の違いはどうですか。陶器製も金属製もありますし、形状も色々ですよね」

フ「金属製だと味に変化があるのではと時々言われますが、そこまで違いはないと思います。それよりも私が気になるのは衛生面でしょうか。例えば、茶葉の細かい深蒸し茶に金属製の網を使うと目が詰まってしまい、汚れやすくなり、あまり衛生的ではありません。私にとっては、そういった“気持ち良いか良くないか”の部分が大きいですね」

吉「やはり陶器がおすすめですか」

フ「はい、個人的な好みでは陶製がいいと思います。店頭にも並んでいますが、急須の有名産地のひとつ、愛知県の常滑焼の“ささめ”といわれるものは、陶製の網部分の面積が広く目が細かいので、深蒸し茶に向いていると言われています。

昔ながらの製法できちんと作られている、いわゆる“出べそ”と言われる形状のものは、どんなお茶もおいしく淹れられるので好きですね。目が粗いものもありますので、茶葉が細かい深蒸し茶などを淹れる際には、気になる方がいるかもしれませんが、きちんとゆっくり注いだら、出べそは深蒸し茶でも一番綺麗にお茶を出せる気がします。」

吉「急須の持ち手があるもの、ないものがありますよね」

フ「持ち手がないものは『宝瓶(ほうひん)』または『絞り出し』と呼ばれる平たくて浅いものですね。絞り出しはぎゅっとうまみを凝縮させるようなお茶のための急須です。ゆっくり一滴一滴で出して淹れる玉露などうまみ系の茶葉に向いていますね。ぬるめのお湯で、一滴ずつゆっくりと出すタイプです。一方、熱いお湯で一気に抽出するようなお茶は、持ち手が付いたもので背丈があり、ある程度の容量の茶器がいいと思います」

吉「店内を見渡すと、色々な茶器が並んでいますが、どういった産地・作家さんのものですか。産地ごとにお茶の味わいや、淹れ方の違いを感じることはありますか」

フ「急須の2大産地とされる愛知県常滑市の常滑焼(とこなめやき)と三重県四日市市の萬古焼(ばんこやき)をメインに、備前焼(びぜんやき)、有田焼、波佐見焼(はさみやき)のものも揃えています。前述しましたが、産地ごとに違いがあるというよりは、作家さんによる形状の違い、焼き方の違いといったほうが適切でしょうか。常滑焼と一言でいっても、作家さんによって、使用する土も焼き方も様々です」

吉「もともと日本の美術や歴史がお好きだったとのことですが、急須選びもそういった観点で選ばれているのでしょうか」

フ「それはありますね。美しい茶器を愛でることは、日本茶を楽しむうえで、欠かせない要素です。歴史的観点という部分でいうと、実は日本の急須って、けっこう新しいものなんです。誕生したのは江戸時代後期あたり、常滑焼の急須が今の形になったのは、明治時代頃でしょうか。萬古焼もそうですね。もちろん、それぞれの陶器産地自体には古い歴史がありますが、急須はそんなに古いものではないんですよ」

吉「お茶産地に頻繁に足を運ばれているフローランさんですが、同様に急須の作家さんの元を訪れることもよくありますか」

フ「よく行きますよ。やはりお互いに顔を見て、相手のことを知ったうえで仕事をしたいですし、実際に手触りや佇まいを自分の眼で見たいです。それに、行かないと手に入らない場合も多いので。(笑)

ベテランの作家さんが多い業界ですが、日本が誇る伝統文化の継承を応援したいという意味でも、なるべく若い作家さんともコンタクトを取るようにしています。一緒に日本の茶文化を盛り上げていきたいという想いですね。

茶器を選ぶ基準としては、まずお客様に喜んでいただけるかどうか。使いやすさに加えて、うちのお客様は小ぶりサイズを購入される場合がほとんどなので、200ccサイズ以下のものを中心に揃えています」

吉「凝ったデザインのものが多いですが、デザイン性と機能性、どういうバランスで選んでいますか」

フ「理想を言えば、両方を併せ持つ急須がベストですが、作家さんによってその比重も異なるので、そこは幅を持たせてセレクトしています。デザイン以外にも、持ち手、注ぎ口、フォルムなど細部にわたって作家さんの個性がでるので、実際に手に持ってみて判断しています」

吉「急須の選び方のわかりやすいポイントがあればぜひ教えていただきたいです」

フ「初めて急須を買うときには、使いやすさや汎用性のある形状、というポイントで選ぶと良いと思います。たとえば緑茶だけではなく紅茶にも使えるオーソドックスな“ひらまる”がおすすめですね。そこからうまみ系に向く“絞り出し”や、凝ったデザインのものなど、自分の好みを追求していけば楽しみも広がります。サイズは1~2人で飲むなら200ccくらいのもの、家族で楽しむなら大型のものを、とライフスタイルに合わせて選ぶといいのでは」

吉「急須のサイズによって温度調整も変わってくると思うのですが、アドバイスはありますか」

フ「同じ茶葉、同じ温度のお湯で淹れても、急須サイズが異なると冷め方に差が出るので味の出方も変わってきます。温度調整する一つのコツは、急須の蓋の開け閉めで調節するといいですよ。熱すぎる場合は、一煎目は蓋を取って蒸らし、二煎目からは蓋をして余熱を利用して淹れる、というふうに。そうやって自分のお気に入りの味を見つけるのも日本茶の楽しみですよね」

吉「茶葉を選んで急須を選んで、淹れ方を調整して。日本茶の世界を自分の感性で自由に楽しむフローランさんに、日本茶の新たな魅力や楽しみ方を教わった気がします。今日はありがとうございました」

青鶴茶舗

住所 東京都台東区谷中3-14-6海野ビル104
アクセス 千駄木駅2番出口から徒歩4分、日暮里駅北口から徒歩8分
電話番号 03-5842-1315
営業時間 11:00-17:30
定休日 水曜日
URL http://www.thes-du-japon.com

写真・吉田浩樹 文・尾崎 美鈴